放射能被害を徹底して隠蔽
 これだけ残虐な兵器が戦後44年にわたって、特にアメリカ、ソビエトが造り続けることができたのは、本来なら不思議な話なんです。あの直後に、世界中の人が広島、長崎の事実を知れば、当然、もっと早く反核運動が起こって、核兵器禁止がとっくの昔にできていた筈なんですね。それがなされなかったところに、実は大きな政治問題が介入したのです。
 原爆を投下した後、トルー マン大統領が有名な「戦争を終らせるために落した」という、まことしやかな作り話を世界に流したわけですが、その影で広島、長崎の被害の事実を軍事機密にして、その記録を一切残させない。研究もさせない。日本の医師や学者が放射線障害について調査を始めた資料を取り上げ、一切禁止したんです。
 つまりアメリカは、あの原子爆弾の破壊力のもの凄さ、あの非常に高度な熱で焼きつくすという、この二つは隠しようがなかった。 しかし、放射能被害を徹底的に隠蔽し続けたのですね。
だから世界で初めて何十万という放射線の被害者が充満していた一番大事な時期に、人類の後々の教訓のために、臨味症状を明らかにし治療法まで考える、たった一つのチャンスがなくなった。

原爆投下の本当の理由
 さて、アメリカが核兵器を使用した理由ですが、それは二つです。一つは戦後のソ連との関係で、核戦略を有利にするということ。 これは専門家の共通意見で、アメリカも今、否定していません。もう一つは、日本人を使つて、放射能の人体実験であった。どういう影響があるか、を調べることが目的だったんです。このことの証拠は沢山あります。

核兵器はなくすことが可能
 残念ながらまだ人類には、すべての戦争をとめる力はないと思います。ただ、戦争に全く縁もゆかりもない人聞が、巻き添えを食って死ぬという核戦争は、核兵器をなくすだけで防げる訳けです。
 だから私は、我々が力を合わせれば、なくせる可能性があると思います。核兵器廃絶というのは、一番とっかかりやすく、多くの人が賛成できる問題です。
 私たち被爆者が外国へ行って、広島・長崎の被爆者がどのように死んでいったか、今も死につつあるかを話すだけで、皆、核兵器はなくさねばと理解してくれます。

医師だけができる役割を発揮して
 核兵器を廃絶させる運動のなかで、お医者さんの果たす役劃について、どこの国でも言っているのですが、放射線の恐ろしさを、専門的に本当に理解できるのは医師なんですよ。ご承知のように、我々が目常的に使うレントゲンで癌を発病させる危険があることがわかったのは、つい20年ほど前のことです。
 それは、広島、長崎の被爆者がわからない形でどんどん死んでいく事実のなかで、わかってきたのです。 被爆者は、明らかに癌の発病率が高い。そして、白血病…。
 皆さんが、放射線の被害の恐ろしさを、素人にもわかる形で話して頂ければ…。 医師が「核兵器は、このような被害を起こすのだよ」とひと言おっしゃるだけで、誰が言うより早く国民の中に、核兵器の恐ろしさは浸透していくわけです。
 これは別にどこかへ行って演説するわけでなく、皆さんの待合室で、診察室でお話になって頂ければ、それでいいわけです。
 放射線の被害は、専門家である皆さんが少しお読みになれば、素人が読むよりずっとよくわかるわけです。
 どうか、市民の皆さんに話をして頂くことをお願いしたいと思うのです。(文責・編集部)