内閣総理大臣 岸田 文雄 殿
経済産業大臣 西村 康稔 殿

福島第一原発の「ALPS処理水」海洋放出を中止し、汚染水の発生を抑える技術の開発促進を求めます

 

政府は8月24日、東京電力福島第一原子力発電所において「ALPS処理水」の海洋放出を開始しました。処理水の処分方法をめぐって様々な科学的手法が提案されていたにも関わらず、政府は海洋放出ありきで他の提案をまともに検討することなく、漁業関係者との約束を反故にしてまで放出を強行したことは断じて許せません。一刻も早い放出中止と、海洋放出に拠らない処分方法の再検討を求めます。

政府は海洋放出を安全とする根拠として、トリチウムなど放射性物質の濃度が国際基準を下回ることをしきりに強調しますが、どれだけ希釈しようとも放射性物質の総量は変わりません。トリチウムは体内に蓄積されることによる内部被ばくの影響がより深刻と考えられています。総量を問題視して対策を講じるべきであるのに、濃度の問題に論点をすり替えたことは、国民に対する背信行為に他なりません。

政府は海洋放出を今後約30年継続するとしていますが、処理水の元となる原発汚染水の発生を抑える技術は、あの過酷な事故から12年経過した現在も完成しておらず、汚染水は今も大量に生じています。これでは海洋に放出されるトリチウムの総量は今後もますます増加していくばかりです。効果が限定的で、そもそも長期運用を見越していない「凍土遮水壁」ではなく、汚染水の発生を根本的に抑える技術開発の促進こそ、政府が本気になって取り組むべき施策ではないでしょうか。

放射性物質による環境汚染は決して「風評被害」などではありません。政府は自らの行いに対する責任の重大さを認識し、海水や海産物の濃度測定にとどまらず、周辺生物の育成状況の調査や、人間の放射線被害に関する健康観察など、長期にわたりその責務を果たしていかなければなりません。

2023年8月25日
核兵器廃絶をめざす富山医師・医学者の会 世話人会
世話人代表 金井 英子